学生時代、毎日早起きをして自分のためにお弁当を作ってくれたお母さん。
喧嘩した次の日も、ちゃんとお弁当を用意してくれていたお母さん。
特別な日には、お弁当に好物をそっと入れてくれたお母さん。

あの頃は照れくさくて言えなかった感謝の気持ちを、大人になった今、息子さんからお母さんへ「お弁当」というかたちで恩返しします。題して、「恩返し弁当」。

友だちから羨ましがられたお母さんのお弁当

今回お母さんへ「恩返し弁当」を作ってくれるのはコウタさん。三人兄妹の長男で、大学を卒業してからシェフを目指し、イタリアンの道へ。現在は修行中に出会った仲間と一緒に代々木上原で「QUINDI 」というお店をやっています。今回はそのキッチンをお借りして、お母さんとの思い出のお弁当を作ります。

コウタさん 「親父が料理番組が好きでよく一緒に観ていて、食への興味は強かったとは思います。
母さんの料理の手伝いはよくしていましたね。母さんは料理教室に通ったり、知り合いのレストランでバイトしたりと、料理上手なんですよ。お弁当の彩りも綺麗なので、よく同級生からは羨ましがられていて、友だちの弁当を作ってたこともありましたね」

コウタさん 「小学生の頃はご近所で仲良くて、土日は仲良しの家族たちと公園に行ったり、どこか遠くに遊びに行ったりしたのがいい思い出でした。そのときは各家庭が大きなお弁当を持ってくるんですよ。今回はその頃を思い出しながら、彩り豊かなおかずやおにぎりがたくさん詰まった、大きめのお弁当を作りたいですね」

そう言って、手際よく料理を作るコウタさん。あまりの手際の良さに、撮影スタッフが見惚れるほどです。今日はお店の仲間たちからなんでも使っていいと言われたそう。

エビフライには手長海老を使い、ホロホロ鶏のチキンカツや、カニのおにぎりなど豪華な食材を使い、お弁当を作っていきます。

実はコウタさん、お店ではサービスに回り、料理は信頼できる仲間に任せているので、キッチンに立つのは久しぶり。昔の感覚を頼りに、次々と料理を仕上げていきます。

お母さんの薄味が料理人として役に立った

コウタさん 「料理を始めた頃から、人の集まる場所を作りたいという気持ちでいたので、自分のお店を持つことがずっと夢でしたね。なので、料理はもちろん、サービスなどの勉強もしていました。そんな時に、とても料理のセンスがいいシェフと出会い、今年の春にお店をオープンしました」

コウタさん 「料理人を目指した頃の親は、反対はしないものの、とても心配していました。でも、この道を選んだから、同じ料理人の奥さんや、信頼できる仲間に出会えたんです。今では、お店に顔を出してくれたり、母さんも少しは安心したかなと思います」

そんなこだわりのお店では、お客さんに気軽に来てほしいという思いから、ワインや実際にお店でも使用する食品の販売も行なっています。

コウタさん 「いやー、久しぶりにキッチンに立つけど、量とかわかんなくて、ちょっと作りすぎちゃうかもな(笑)。お弁当箱がパンパンになっても大丈夫ですか?」

コウタさん 「母さんの料理って、すごい薄味で……。飲食店で料理を作り始めた頃は、味が薄いと言われて少し苦労したことがありました。ですが、薄味に慣れていたので、味覚がすごい繊細で、カレーのルーが変わっても気がつくくらいになりました。そのおかげか、下っ端の頃は先輩の料理を味見すると、隠し味や味の変化にもすぐ気がつき、料理人としては役に立ちましたね。」

もちろん、今日の料理もお母さん好みの薄味で作っています。

コウタさん 「エビフライは先に頭だけをしっかり揚げることで、頭はカリカリに、身はプリプリに仕上がって、おいしく食べることができるんですよ」

他にも、チキンカツは先に蒸してから衣をつけて揚げるなど、手が込んでいます。

お弁当に必ず入っていた、大好きなもの

コウタさん 「お弁当には、いつも僕の好物であるじゃがいもが入っていました。お母さんの粉ふき芋はいつもホクホクでおいしかった思い出があります。でも、料理を始めてから気がついたのですが、じゃがいもって調理次第で水っぽくなったりして、結構コツがいるんですよ」

そんなじゃがいもをバターで和えました。ご飯はホーロー鍋で炊き、ジェノベーゼ、蟹、きのこの三色おにぎりも作ってくれました。

さあ、彩り豊かなお重弁当が出来上がりました。プロの食材と技が尽くされていて、とっても豪華ですね。いよいよお母さんと公園で待ち合わせして、サプライズでお弁当をプレゼントします。料理人の息子からの手作り弁当、料理上手のお母さんはどんな反応をするのでしょうか?

冬の気配を感じる、お店近くの公園で待ち合わせ

お母さん 「元気〜? 天気が良くて気持ちいいね〜」

そう言いながら、笑顔で待ち合わせ場所に現れたお母さん。電車にはあまり乗り慣れていないそうですが、昔コウタさんがこの近くに住んでいたこともあり、今日はまっすぐに来られたそう。

お母さん 「コウタは昔から活発で元気な子でした。大学に入って、会社員になるとばっかり思い込んでいたから、料理人になると聞いたときはビックリしたし、少し心配でしたね。でも、昔から料理を手伝ってくれることも多かったので、やっぱり好きだったのかな? まさかお店まで持つと思わなかったですが、一家の大黒柱としても、夢のためにも、もっと頑張ってもらわなきゃですね」

遠いところに住んでいても、コウタさんのお店に遊びに行くなど、顔を合わせる機会は多いそう。仲のいい親子関係が伺えます。

そんなお母さんに「ありがとう」をお弁当という形で伝えます。

大きなお弁当箱にぎっしり詰められた自慢のおかず

まっ白なレジャーシートを敷いて、お母さんにお弁当を渡します。渡されたお弁当箱の大きさに、ちょっと驚いているようですね。

コウタさん 「はい、お弁当」

お母さん 「あら、大きいお弁当箱ね。開けてもいいかな?」

コウタさん 「もちろんです」

さすが料理人のコウタさん。今までのお弁当男子の中では一番自信が感じられる発言です。

お母さん 「わわわ、豪華〜! なぁにこれー?」

コウタさん 「食べながら説明していくね」

二人「いただきます!」

お母さん 「何から食べようかな……悩んじゃうね」

コウタさん 「好きなのから食べていいよ」

お母さん 「このチキンカツ美味しい!!」

コウタさん 「ホロホロ鳥を使ってるんだよ」

お母さん 「そんなお肉はお家じゃ使わないもの〜、お母さんのと違う! ……お母さんのお弁当は素朴だったよね」

コウタさん 「素朴というか、薄味だったよね。だから今日も薄めにしたよ」

お母さん 「うんうん、美味しいです。他にはどんなのがあるの?」

コウタさん 「おにぎりは、これが蟹で、これがバジル。あときのこだね」

お母さん 「うわ! 豪華ねぇ〜」

コウタさん 「昔さ、本当によく大きなお弁当箱持って出かけたよね。近所の友だち家族とみんなで行ったから遠足みたいだったよね」

お母さん 「お花見したり、バーべキューしたり、楽しかったよね〜」

お母さん 「この落花生美味しいなぁ〜! お父さんが作ったのを使ってるんでしょ」

コウタさん 「そうだよ。お店でも出してるんだ」

お母さん 「お父さんも喜んでたよ。お母さんの料理も和食ばっかりだったけど、コウタの影響でお料理のレパートリーも増えたなぁ。ハーブとかも使うようになったから、いろんなハーブがお庭に育ててるよ」

お母さん 「コウタは家族をもって、お店もオープンして……。本当にいいパパしているなぁって、お母さん感心してるのよ。コウタが忙しいときは、お嫁さんがしっかりと支えてくれて、一人で義実家に孫の顔見せに来てくれたりして。お嫁さんにも感謝ね」

コウタさん 「そうだね。忙しくて夜遅くなっても理解があるから、とても感謝してるよ」

お母さん 「美味しかったです、ごちそうさまでした。さすがですね」

コウタさん 「ごちそうさまでした」

お母さん 「はるばる来たし、孫たちの顔でもみて帰ろうかな〜」

コウタさん 「このあと、子どもたちとも待ち合わせしてるから、もうすぐ来るんじゃないかな?」

お母さん 「嬉しい! よくわかってるわね〜」

毎日のお弁当に詰まっていたもの

毎日、お母さんが作ってくれたお弁当。それは子どもの心体の成長を支える「栄養」なのかもしれません。その栄養が身体はもちろん、心の成長を助け、それぞれの道を歩んでいく力となります。大きな夢に向かって走る後ろ姿がたくましいのは、もしかすると、お母さんの愛情が詰まったお弁当のおかげかもしれませんね。

どんな時もあなたを支えてくれる家族に、ちゃんと「ありがとう」を伝えていますか? 普段なかなか素直に感謝の言葉を伝えづらい家族だからこそ、あなただけのかたちで「ありがとう」を伝えてみませんか?

ライター/板橋葵
編集・カメラ/高山諒

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