学生時代、毎日早起きをして自分のためにお弁当を作ってくれたお母さん。
喧嘩した次の日も、ちゃんとお弁当を用意してくれていたお母さん。
特別な日には、お弁当に好物をそっと入れてくれたお母さん。
あの頃は照れくさくて言えなかった感謝の気持ちを、大人になった今、息子さんからお母さんへ「お弁当」というかたちで恩返しします。題して、「恩返し弁当」。
実家を出て10年、やっぱりおかんの味が好き
今回お母さんへ「恩返し弁当」を作ってくれるのはセドさん。ちょっぴりやんちゃだった学生時代を経て、今は結婚し、実家のある群馬から離れた神奈川県の湘南で暮らしています。今日はお母さんへお弁当を作るために東京で待ち合わせ。2ヶ月に一度は実家に帰る仲の良さだけれど、お母さんが東京に来ることは少ないので、なんだか新鮮です。昔から料理が好きだったという彼、今日は思い出の味を再現します。
セドさん「今日作るのは、ちくわのチリソース和えと卵焼き、添え物のナムル。おかんはよく唐揚げやエビをチリソースで和えた料理を作ってくれたのですが、普通のチリソースとは少し違うんですよね。今日はそのチリソースをおかん直伝のレシピで再現します。実家を出てからはおかんの味が恋しくて、実家に帰るたびにレシピを聞いて作ってみているので、まぁ大丈夫かな!」
話しながらでも手際は良く、あっという間に一品完成。じつは今回のお弁当作りのために、ひっそり練習してくれていたそう。
大好きなおかんのちょっと困る“かわいい”ところ
セドさん「今でも忘れないのが中学の時のカレー事件! おかんの作ったカレーが美味くて褒めたら、1ヶ月くらい毎日カレーが続いて……。あれはホントに勘弁して欲しかったですね(笑)。石焼用鍋を買った時も石焼ビビンバが2週間続いて……。でもそんなところも、おかんの可愛さですね」
セドさん「学生時代は毎日おかんの弁当だったから、コンビニ弁当を食べているクラスメイトがやたらかっこよく見えて、羨ましかったんですよね。でも実家を出てから一人でコンビニ弁当を食べるたびに、おかんの有り難みを改めて感じて寂しくなりましたね」
秘密の隠し味が決め手! おかん直伝、チリソース弁当
完成したのは、ちくわのチリソース和え弁当。付け合わせは卵焼き、ほうれん草ともやしのナムルです。卵焼きは甘くないのがポイントで、すべての料理のレシピはおかん直伝だそう。
さあ、いよいよお母さんを待ち合わせ場所に呼び出し、サプライズでお弁当をプレゼントします。お母さんは、息子さんからの初めてのお弁当を喜んでくれるのでしょうか?
待ち合わせ場所は、桜が満開の公園
お母さん「久しぶり〜! ……でもないかな(笑)」
お弁当を食べる場所に選んだ公園はちょうど桜が満開で、たくさんの家族連れで賑わっていました。久しぶりの東京にウキウキした様子のお母さん、笑顔が溢れていますね。
お母さん「セドはとにかく優しい子。時々優しすぎて心配になることもあります。反抗期の時期でも『おかん、ラーメン作るけど一緒に食べる?』なんて声をかけてくれたりしました。今は実家を離れて暮らしているので、ちょっと寂しいですね。わがままを言えば帰って来てほしいけれど、どこにいても自分の夢に向かって一生懸命生きていてくれたらそれでいいです」
そう話すお母さん、今日は二人きりでの外出になんだか嬉しそうです。じつは気が強いらしく、それは息子にもしっかり遺伝しており、似た者同士喧嘩することも多いそう。でも喧嘩するほど仲のいい二人、会話も弾みます。
おかんの味、教えてくれた通り作れるようになりました
人の多い公園で人混みになれないお母さんをエスコートする姿は、なんだか恋人同士のようなお二人。桜の樹の下にシートを敷いて、先ほど作ったお弁当を渡します。
お母さん「え? お弁当? セドが作ったの??」
早速お弁当を広げ、中身に驚くお母さん。嬉しそうに写真もパシャリ。
お母さん「すごいすごい!」
セドさん「おかんの味を完全再現してみたんだ。俺のためにずっとお弁当を作ってくれてありがとう」
二人「いただきまーす!」
お母さん「美味しい! これはチリソースね。ちゃんと隠し味も入ってるね」
じつはこのチリソースが、おかんのこだわりの味。ケチャップと砂糖を焦がしながら炒め、そこにスイートチリソースと隠し味のシナモンを入れています。
お母さん「よくできてる。この卵焼きの焼き具合も上手だね」
セドさん「固くならないように、半熟で火を止めて余熱を使ったからね」
お母さん「さすが〜! 昔から料理は好きだったから、やっぱり上手ね」
セドさん「神奈川にみんなで住んでいた頃は、よくお弁当を持って富士山に遊びに連れて行ってくれたよね。実家から持って来たアルバムにその時の写真があったよ」
お母さん「あの頃は、よく山の五合目までお弁当を持って家族で出かけたね」
セドさん「そうそう、いつもおかんが海苔巻きを作ってくれたよね。遊園地にもお弁当を持って行って、いつも家族で出かける時はお弁当が楽しみだったな」
お母さん「作ってあげていた頃が懐かしいね。もう、すっかり作ってもらえる年齢になったんだね。歳をとったなぁ」
セドさん「そんなこと言わないでよ!」
お母さん「全部上手に出来ていて、美味しい。100点です!」
セドさん「おかんのレシピを実家に帰っては教えてもらって、一人暮らしの家で作ってたんだよね。味は覚えているから、『もう少し塩を入れた方がいいかな?』とか、『焼きすぎたかな?』とか自分なりに調整したりして……」
お母さん「ごちそうさま。とっても美味しかったです」
セドさん「おかんが教えてくれた通り作ったからね」
お母さん「昔から料理は好きだったけど、もうこんなに作れるようになったことに驚きました」
セドさん「実家の頃は仲間内でやるBBQメニューとかが得意だったけど、今はおかんの味が食べたくて……家庭的になったのよ、俺も(笑)」
お母さん「今日はありがとう。東京で会う友達も減って、あまり東京に来なくなっちゃったから、呼んでくれて嬉しかったよ」
セドさん「どういたしまして、遠いところありがとうね」
お母さん「また遊びに来ちゃおうかな」
セドさん「どうぞどうぞ!」
毎日のお弁当に詰まっていたもの
毎日、お母さんが作ってくれていたお弁当。たくさんの愛情が詰まったお弁当は、もしかしたらお母さんからの手紙だったのかもしれません。「この味が好きだったのかな?」「今日は残しているから、疲れているのかな?」そんな息子からの返事を細かいところまで読み取るお母さん。思春期や反抗期にも、その文通は続きました。
いつでも、どこにいてもあなたのことを気にかけてくれる家族に、ちゃんと「ありがとう」を伝えていますか? 普段なかなか素直に感謝の言葉を伝えづらい家族だからこそ、あなただけのかたちで「ありがとう」を伝えてみませんか?
ライター/板橋葵
写真/高山諒(ヒャクマンボルト)
編集/サカイエヒタ(ヒャクマンボルト)