“親子飲み”にお邪魔して、2人のトークを見守る本連載も、第3回目。
今回お話を聞かせてもらったのは、フリーライターとして働く娘・みさきさんと、父・秀雄さんの仲良しコンビ。
親の代から埼玉の朝霞に住み、職場も住まいも社交場も、行動範囲がほぼ朝霞のみ! というお父さんがやってきたのは、娘のみさきさんが住む街・高円寺。
みさきさんの知り合いがやっている「昼はセレクトショップ、夜はバー」という、実に高円寺らしいお店「MACARONIC(マカロニック)」での親子飲みに密着します。
「2人で飲むのはこれが初めて」と照れながら始まった親子飲み、はたしてどんな会話が繰り広げられるのでしょうか。
あまのじゃくで照れ屋のお父さんと娘の、ついついほっこりしてしまうやりとりを、ちょっと覗いてみましょう!
家族仲がよすぎて反抗することがないから、ピアスを開けた。
みさきさん「小さいころは、毎年近所のお祭りに家族で行ってたよね〜」
お父さん「大きくなったら、みさきとお兄ちゃんは友達と行くようになったけどな」
みさきさん「最初、私が友達と行くって言ったとき、お父さんどう思った?」
お父さん「どうだったかなぁ。でも、お母さんに『子供が大きくなったら付き合ってくれなくなるんだから、今のうちだよ』って言われてたから、まぁ、覚悟はできてたよね」
みさきさん「私、別に友達と行きたかったわけじゃないんだよ。でも中学に入ったらみんな『家族と出かけるのダサい』って感じだったから仕方なく(笑)。周りの意見に左右されやすいんだよね、初めて反抗したときも友達の影響だったし」
お父さん「え、みさき、反抗したことあったっけ?」
みさきさん「あったよ! ピアス開けて、めちゃめちゃ怒られたときあったじゃん」
お父さん「あ〜、たしかにそんなことあったなぁ」
みさきさん「学校で友達が『親キライ』って話してて『親に反抗するのはカッコイイ!』みたいな感じになって。でもうちの家族仲良かったじゃん。だから『何に反抗しよう? とりあえずピアス開けとくか』って感じだったんだよね」
お父さん「あのときは怒ったよなぁ(笑)」
みさきさん「私が一人暮らししたときはどう思った?」
お父さん「そりゃ、嫌なことは嫌だよなぁ。男ならほっとくけど、女の子は……やっぱり心配だよね」
みさきさん「たしか、私が一人暮らしすることはお母さんから伝えてもらったんだよね」
お父さん「いつも子供達と俺の間がうまくいくように取りもってくれるんだよな。上手なんだよ。尊敬しちゃう」
みさきさん「私がフリーライターになるときも、お母さんがお父さんに上手に伝えてくれてたから、あんまり反対されなかったよね(笑)。最初聞いたとき、どう思った?」
お父さん「俺の時代は、会社に入って正社員で働くのが当たり前で、それ以外はプー太郎ってイメージがあったから、あんまりいい気はしなかったよね。どこまで本気で仕事してるのか、よく分からなかった」
みさきさん「でもお父さん言ってくれたよね。『昔の考え方でごめん』って」
お父さん「今は昔と違うからさ。みさきが自分で仕事を取ったりしてるのは、正直すごいなと思うよ。俺も、昔はひとりで仕事をしたくて探したこともあったんだけど、見つけらんなかったんだ。あの頃は、フリーランスなんてあんまりいなかったから。だから、羨ましいと思うこともあるんだよね」
思い出す20年前のこと。「いつまでこの手を握れるかな」
今回から、編集部が事前に作成しておいた「でれぽか指令カード」が初登場。封筒の中にランダムでお父さんや娘への指令が書かれています。
2人だけだと恥ずかしがって話せないことやできないことを、このカードで引き出してみましょう。
まずは、お父さんが1枚!
Q. みさきさんがしてくれたことのなかで、一番うれしかったことは何ですか?
お父さん「なんだろうなぁ。分かんねぇなぁ」
みさきさん「肩たたき券も渡したし、受験勉強も頑張ったし、だいたいの喜ぶことはやってきたと思うんだけど(笑)」
お父さん「関係性が安定してたから、いい意味で浮き沈みがなかったのかもな」
みさきさん「安定してたよね」
お父さん「逆に、俺がしたことで嬉しかったことはある?」
みさきさん「3年前、結婚したい人を家に連れて行ったときあったじゃん。結局結婚しなかったけど(笑)」
お父さん「あー、あったねぇ」
みさきさん「あのときのお父さんの対応は嬉しかったな。目も合わせてくれなかったらどうしようとか、トゲのあること言うんじゃないかとか、物投げたらどうしようとか(笑)、心配してたけど、すごくニコニコ対応してくれたよね」
お父さん「う〜ん、顔と腹は違うからね。まぁ内心は複雑な気持ちだったよ(笑)」
Q. お父さんの好きなところを10個あげてください。
みさきさん「えー! なんだろう。まず『悪口を言わないこと』でしょう。お父さん絶対人の悪口言わないもんね。そういうとこ好きなんだ。あと『お母さんに優しい』!」
お父さん「ふーん(照れてる様子)」
みさきさん「『健康に気をつかう』、『ハゲてない』これ大事(笑)。それから、うーんと……『目がいい』!! あと5つ? うーんと、うーんと……」
お父さん「もうないよ。俺、そんなにいいとこないもん」
みさきさん「あっ!『車の運転がうまい』!」
お父さん「大丈夫大丈夫、もうないから」
みさきさん「『若いころがネプチューンの原田泰造に似てる』(笑)。あと、最近パソコン勉強してる! お父さんて『勤勉』だよね。仕事のことも悪く言わなかったし。何か嫌なことがあったんだなっていうのは背中でわかるんだけど、絶対にグチを言わなかったな」
お父さん「俺、浮き沈みが態度に出ちゃうんだよ」
みさきさん「でも悪口は言わなかった。私が仕事大好きなのは、お父さんが仕事のグチを言う人じゃなかったから、っていうのが大きいと思うな」
Q. お父さんの手を、10秒間握ってみましょう!
みさきさん「え、やだ! 恥ずかしい!『手を握ってみよう』だって!」
お父さん「(まんざらでもなさそうに)えぇ〜」
みさきさん「あっ、そうだ、あれやろう。首脳会談みたいなやつ!」
みさきさん「いち、」
みさきさん「にい、」
みさきさん「さん……」
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みさきさん「だめだ!! めっちゃ恥ずかしい(笑)!!!」
お父さん「今手を握ってて思い出したんだけど、俺ね、お兄ちゃんとみさきが小さいとき、寝てる2人の手を握ったことあるんだよね」
みさきさん「そんなことしてたの?」
お父さん「うん。『いつまでこの手を握れるのかな』と思ってさ」
みさきさん「それっていつのこと?」
お父さん「並んで寝てたから、小学2〜3年のころだろうね」
みさきさん「じゃあもう20年ぶりくらいだ、手を握るの。お母さんとは手を繋いだりしてたけど、お父さんとは物心ついてから繋いだ記憶がないもん」
お父さん「そうだなぁ。これが最後かもなぁ」
みさきさん「いや、この先もあるでしょ。節目節目がさ(笑)」
お父さん「そりゃ死ぬときだろ」
みさきさん「もう、すぐそうやって言うんだから〜」
お父さん「口だと何でも言えるからさ(笑)」
大事な人だから、大事にできるときにしておきたい
実は、今回みさきさんが親子飲み企画に参加してくれたのは、昨年の「あるできごと」がきっかけだったそう。
それは、お父さんの病気。
去年、白血病と診断された秀雄さんは、入院中、2度も意識を失って倒れ、集中治療室に入りました。また、3ヶ月にも渡る抗がん剤治療を受けていたそうです。
みさきさん「実はさ、親子で飲んでみようって思ったの、家族との思い出を増やしたいと思ったからなんだよね」
お父さん「そうなんだ?」
みさきさん「去年お父さん入院したじゃん。今回は奇跡的に合う薬が見つかって回復できたけど、人はいつどうなるか分からないんだな、って思ったから……大事な人のこと、ちゃんと大事にしたいなと思って」
お父さん「へ〜、そうなんだ。ありがとうございます(笑)」
みさきさん「去年からいろいろ物もあげるようになったし、会いに行くことも増えたでしょ〜!?(笑)そうだ、お父さん今日このあとうち来る? 猫見たいでしょ」
お父さん「いや、いいよ~。俺、猫嫌いだから」
みさきさん「嘘ばっか(笑)。こないだ実家に猫連れてったとき『あれ? 猫はどこ?』って探し回ったり、『もう一回だけ抱っこ』って言ったり、メロメロだったじゃん!」
お父さん「まぁ……、目を見ちゃうとダメだよな」
みさきさん「もう、素直じゃないんだから(笑)」
そんなところで、第3回親子飲みは終了。
照れ屋のお父さんが、娘の手を握ったときに思わず漏らした「子供達への想い」にうるっときてからの、「実は、病気の父を想って親子飲みにトライした」という娘の真意が語られるという完璧な展開でしたね。でもこれ全部ノンフィクションですからね。
なお、このあと、帰り道でカメラマンが「腕を組んでください」とリクエストしたところ、「手を握る」指令のときにはものすごく照れていたお父さんが、自ら娘に腕を差し出していました。
そんな奇跡が起こるかもしれない、大切な人との大切な時間。
ぜひ、これからもたくさん紡いでいってくださいね。
取材協力:MACARONIC
東京都杉並区高円寺北2-38-4
03-6479-9820
OPEN 14:00~22:00
取材・編集/坂口ナオ+プレスラボ
写真/鶴田真実