普段、親との何気ない会話の中で、やりたいことや叶えたいことを耳にしたことはありませんか? そんな小さな夢や目標を叶える企画が「サプライズ大作戦」。今回、高齢ながらゴルフを始めた父の「ホールインワンを達成してみたい」という言葉を聞き、その目標を叶えてあげたいと編集部にサプライズ企画を相談してきてくれたのが、埼玉県川越市に在住する晶敏さん(36)です。
晶敏さんは現在、父の和彦さん(72)の経営する接骨院を手伝いながら、整体師の資格を取得するために専門学校へと通っています。これまでまったく違う仕事をしていたのですが、父が高齢になったこともあり、後を継ぐことを決意したそうです。
晶敏さん「これまで好き勝手やってきて、親孝行と呼べることはあまりしていませんでした。でも、親父の仕事を手伝ってみて、整体師がどれだけ大変な仕事かがよくわかったし、親父がどれだけ患者さんの痛みや苦しみに寄り添ってきたかを身をもって知ることができたんです。そんな親父に、ちょっとでも仕事を忘れて楽しんでもらえるものはないかと考えました」
父親の和彦さんは、友人に誘われて4年前にゴルフを始めたそうで、初心者ながらに年に数回、ゴルフへ行くのが趣味なのだとか。「ふとした会話の中で『1回でいいからホールインを経験してみたい』という言葉を耳にしました。その時、サプライズ企画が思い浮かんだんです」
今回の企画内容は、もちろんお父さんには秘密。当日は、親子で練習場へ行ってゴルフの練習をする企画だと伝えてあります。しかし実際は、千葉のゴルフ場へ行き、ショートホールでお父さんにホールインワンにチャレンジしてもらうというもの。
晶敏さん「親父はのんびりした性格なので、現地に着くまではバレないと思います。本番が楽しみですね」
そして、サプライズ決行日。
天候にも恵まれ、絶好のゴルフ日和となりました。晶敏さんが一人暮らししている家からお父さんを迎えに行くため、いざ車で出発です。
父の和彦さんは親子で打ちっぱなしに行くと信じているようです。車に乗り込んだ時にも、晶敏さんはさりげなく「今回は取材があるから、少し遠くまで行くからね」と、声をかけます。
川越インターから高速へ。お父さんの「高速に乗るのか?」という質問に、晶敏さんは「いいから、いいから」と、落ち着き払った様子。
渋滞にはまることなく、首都高を過ぎ、アクアラインを抜け、木更津方面へと順調に進んでいきます。さすがにお父さんも不安になってきたようです。
お父さん「本当に練習場に行くんだよな?」
晶敏さん「まあまあ、いいから。ちょっと寝てなよ(笑)」
そして、ついに今回のチャレンジの舞台となる「きみさらずゴルフリンクス」(千葉県木更津市)に到着。晶敏さんの「着いたよ」の言葉に、お父さんは驚きを隠せません。
お父さん「ここで練習するのか? まさかコースを回るんじゃないよな?」
晶敏さん「実は、打ちっぱなしに行くというのは嘘で、本当は親父にホールインワンにチャレンジしてもらう企画なんだよ」
お父さん「えっ、こんな立派なゴルフ場で?」
晶敏さん「1ホールを貸し切りにしてあるから思いっきり打ち込んじゃってよ(笑)」
面食らうお父さんを横目に、受付を始める晶敏さん。どうやらサプライズは成功のようです。
お父さん「お前、ここのホールを貸し切るなんて、高かったんじゃないか?」
晶敏さん「親父、そう思うなら、本気でホールインワン狙ってくれよな」
まだ状況をよく飲み込めていないお父さんをカートに乗せ、コースへと向かう晶敏さん。実は晶敏さんもゴルフは初心者で、コースに出るのは初めての経験だとか。
プロでも難しいホールインワンという大きな夢にチャレンジする舞台となるのは、左に池が続くショートホールです。距離は135ヤード。今回は狙いやすいように、Ladiesティーからの挑戦となり、お父さんは7番アイアンを手に取りました。グリーンの左右にはバンカーが配置されていますが、お父さんの視線の先にあるのはグリーン上のピンフラッグのみです。
ティーグラウンドに立つお父さんの表情は真剣そのもの。今回は、ホールを貸し切ることができた約2時間内でのチャレンジになり、とにかくひたすら打つことが成功への近道です。クラブを握る手にも思わず力が入ります。
緊張の第1打!
低めの弾道でフェアウェーを2度バウンドしたボールはグリーンに乗り、カップから3メートルほどの位置でピタリと停止。いきなりのナイスショットに晶敏さんも思わず「おお!」と歓声を上げます。
晶敏さん「これはいけるんじゃない!?」
お父さん「いやいや、偶然だよ。まずは体をならさなきゃ」
お父さんは謙遜しながらも、まんざらでもない様子です。
期待が高まる中でショットを続けるも、1打目のようにはいかず、バンカーや池にボールが吸い込まれ、グリーンに乗ってもピンの近くに寄せることができません。
この日は気温が30℃を超え、西日も強く、打ち続けるにはかなりの体力が必要。高齢のお父さんにはかなり厳しい条件です。しかし、息子の期待に応えようと、ひたすら打ち続けます。
気づけば打数は50を数え、疲労は増すばかり……。
ここで晶敏さんが用意していた助っ人の登場です。現役プロゴルファーの南崎次郎さん(48)に、ホールインワンを狙うコツを指導してもらうことに。
長いプロ生活の中でホールインワン4回、アルバトロス5回の経験を持つという南崎プロ。体力の消耗が激しいお父さんに、リラックスして転がすように打ったほうがホールインワンは出やすいとアドバイスを送ります。
少しでも体力を温存できるように、ボールを置いてあげる晶敏さん。「あんまり無理はするなよ」と、少しぶっきらぼうにお父さんに声をかけるも、何とか夢を叶えてあげたいと息子なりに必死で応援しているようでした。
是が非でも息子の期待に応えるべく、渾身の力でクラブを振り続けるも……
徐々に蓄積していく疲労から集中力も途切れていき……
最後の打球も大きく右にスライスしてしまいました……。
そして制限時間が来てしまい、チャレンジは終了。結果、打った数は123球。ホールインワンは達成ならず。思わず肩を落とす父に、「ドンマイ、すごいよ、よくこの暑さでがんばったね」と、晶敏さんは労いの言葉をお父さんにかけます。
二人でグリーンへ向かい、一番近くに寄せることができたボールを確認。遠くから見るよりも、意外とカップから離れていることがわかり、思わず笑い合っていました。
晶敏さん「数打ちゃ当たるっていうのは嘘だね(笑)」
お父さん「実は1打目の時、いけると思ってたんだけどなあ(笑)」
残念ながら今回の目標は達成できませんでしたが、晶敏さんの粋な計らいで、一番カップに近かったボールにサインをし、がんばった父への記念としてプレゼントするようです。
「いつもありがとう 晶敏」
小さなボールに書ける文字は少なくても、今日のサプライズ企画や、チャレンジ中の応援と気遣い、そして何より、父と同じ仕事を選んだことで、その想いはお父さんに伝わっているはずです。
照れくさそうにボールを手渡す息子に、父が返したうれしそうな笑顔こそ、今回のサプライズ企画の成功の印。二人とも、本当にお疲れ様でした!
ライター・編集/倉家祥行
写真/酒井俊春
取材協力
きみさらずゴルフリンクス
〒292-0201
千葉県木更津市真里谷2935-7
TEL:0438-53-6100
※当ゴルフ場では通常、コースを貸し切ってのホールインワン企画は行っておりません