毎日、家族に料理を作っていたキッチン。
夕飯の支度をしていたら、学校から帰ってきた娘が手伝いもそこそこにつまみ食いしたり、今日の出来事を報告してきたり……。
料理だけでなく、母娘の思い出を作り続けてきたキッチン。そんな日々を懐かしく思い出すお母さんも多いのではないでしょうか。
そこで今日は、あるお母さんに、親元を離れ生活している娘に久しぶりの手料理を振る舞ってもらいます。
ちょっとタイムスリップして、あの頃のキッチンを思い出しながら、普段は伝えることができない気持ちを懐かしの料理と一緒に伝えることができるでしょうか。
「タイムスリップキッチン」
身体にいいものを具沢山に詰め込む、お母さんの愛情
今回娘へ手料理を振る舞うのはユキさんのお母さん。娘のユキさんはオートハープを演奏するシンガーソングライターとして活躍するしているのだそう。お母さんは自宅でいつも使用している割烹着をスポッと被り、紐を後ろでくくったら下ごしらえを始めます。
お母さん「ユキは特に揚げたてのコロッケが好きで、揚げ始めると、おもむろにキッチンにやってきてよくつまみ食いしてました。具はジャガイモに玉ねぎ、人参、それと生姜。生姜は体に良いからどんな料理にも入れていましたね」
お母さん「この肉まんはよく自宅でも出していたんです。水とドライイーストと胡椒を混ぜてこねた生地に、ひき肉や野菜を入れて包みます。意外と簡単なんですよ。私とユキは蒸す肉まんが好きだったけど、焼く方が簡単だから今日は焼きマンで(笑)」
お母さん「ユキは小さい頃から野菜もよく食べてましたね。だから、コロッケにも肉まんにも野菜をたくさん入れるようにしています。だけど、ピーマンだけは苦手だったかな。幼稚園のとき、ピーマンの肉詰めをお弁当に入れたら、ピーマンだけ返却されたことがありますね(笑)」
肉まんはサプライズで登場させるためフライパンからお皿へ移し一旦戸棚の下に隠しておくことに。下準備を終えたところで、ユキさんとの待ち合わせ場所へと向かいます。
この日のために新調した娘用のエプロン
ユキさん「お母さん、お待たせ!」
待ち合わせ場所で少し待っていると程なくしてユキさんが現れました。
2人が会うのは約1ヶ月ぶり。白とピンクの傘をぴったりとくっつけながら、キッチンへと向かいます。
お母さん「エプロン持ってきたよ」
ユキさん「こんなの家にあったっけ?」
お母さん「今日の日のために買ったの」
ユキさん「私、あんまりお手伝いする子どもじゃなかったもんね(笑)」
ユキさんの後ろに回ってエプロンのリボンを結んであげるお母さん。そして心なしか頰を緩ませるユキさん。2人でキッチンに立ち、料理を再開します。
未熟児だったけれど、母の料理ですくすくと育っていった
お母さん「ユキは小さい頃イタズラっ子だったよね。フォークをVHSデッキのビデオ差込口に入れてみたり、フォークで椅子のクッションをさしてみたり……」
ユキさん「あはは。フォークばっかり(笑)」
お母さん「元気に育ったけど、ユキは産まれたとき未熟児だったんだよ」
ユキさん「母子ともに命が危ない状態だったんでしょ?」
お母さん「そう。産まれた直後に輸血が必要になったの」
ユキさん「そんなこと忘れるくらい今では健康体だけどね。よく食べる子だったからかな(笑)」
母が水筒に入れたのは酸っぱすぎるレモンティー
お母さん「でも、家ではやんちゃだったけど、外ではおとなしかった」
ユキさん「よく人見知りしてたよね」
お母さん「幼稚園のときは、友だちに『遊ぼう』って電話できないくらいシャイな子だったよね。だから代わりにお母さんが電話で誘ってた」
ユキさん「お母さんがゲームを用意したり、お菓子を作ったりして友だちを呼ぶ環境を整えてくれてたんだよね」
お母さん「そしたら幼稚園から小学校まで友だちが毎日10人は遊びに来るようになった」
ユキさん「え〜!10人は言い過ぎ!でもそのおかげで家が皆の遊び場になったんだよね」
お母さん「ちょっとコロッケにパン粉付けてくれる?」
ユキさん「あ、コロッケに生姜入れてるんだ」
お母さん「だって体に良いでしょ?」
ユキさん「お母さん、体に良いものだったら何でも入れちゃうんだよね。小学校のとき水筒にレモンティーを入れて来てる友達が羨ましくてお母さんに頼んだの覚えてる?」
お母さん「そんなことあった?」
ユキさん「ワクワクしながら水筒のコップに注いで飲んでみたら、甘さより酸味が100倍くらいあるレモンティーだったの」
お母さん「あはは(笑)」
ユキさん「お母さんにクレームを言ったら『それくらいレモン入れないと美肌にならないわよ!』って逆ギレされたんだよ(笑)」
娘に受け継がれる母親の豊かな創造力
ユキさん「あ、揚げたてのコロッケ食べて良い?」
お母さん「小さい頃、よくお母さんにバレないようにこっそり食べてたよね。今コロッケ食べたら他のおかず食べられなくなっちゃうよ?」
ユキさん「だって、美味しいんだもん。美味しいのがいけない!」
お母さん「スープも、味見してくれる?」
ユキさん「うん、おいしい!」
お母さん「あとサラダの盛り付けもお願いね」
お母さん「今日はこれだけじゃなくて、実はまだおかずがあるの」
ユキさん「え!まだあるの!?」
お母さん「ここに隠してあったんだけど……」
ユキさん「あ!肉まんだ!懐かしい。お母さん肉まんの生地が余ったらピザにリメイクしたりもしてたよね。お母さんはキッチンでクリエイティビティを発揮してたよね」
お母さん「余った野菜は何でもタネに混ぜてみたりね」
ユキさん「そういうお母さんの何でも一度は試してみるところ、私に受け継がれてるのかも」
仕上げておいた肉まんを焼き、4品が完成しました。テーブルに乗った料理は思いのほか大量に。この料理の量がお母さんの愛情を表しているようです。
母が認める、いつまでも変わらない素直で優しい性格
お母さんはユキさんのためにたっぷりと作った料理を、満面の笑みでテーブルへと運んでいきます。
お母さん「ユキは今オートハープの演奏以外にも色々活動してるよね」
ユキさん「一ヶ月前にしたワンマンライブはお母さん初めて来てくれたよね」
お母さん「うん。今まで行ってなかったもんね。正直、まだユキの将来を心配する気持ちは消えないけど……」
お母さん「優しくて素直な性格が変わっていないことは安心してる」
ユキさん「そうかな」
お母さん「学生時代の友だちは今になってもずっと大切にしてるし、喧嘩しても相手のことを思いやって関係を長く続けてる。そういうところいつまでも大事にしてね」
ユキさん「うん、ありがとう」
お母さん「あ、ご飯これで揃ったから食べて!」
ユキさん「うん、いただきます」
お母さんが娘の身体を思いやり工夫を凝らして作った家庭料理。そして、そんなお母さんの創造性に富んだ料理を食べて成長したユキさん。ユキさんの多方面で活躍できるバイタリティは、もしかしたら自宅のキッチンが育んでいたのかもしれません。
離れて暮らすお子さんに、久しぶりに好きな料理を振る舞う機会を設けてみてはいかがでしょうか?
昔作ってた料理を通してあのころにタイムスリップすれば、自然といろんな思い出が話せるようになることでしょう。
そして、思い出というスパイスがプラスされたその料理はきっと、どんな料理よりも美味しいはずです。
ライター/いちじく舞
カメラ・編集/高山諒(ヒャクマンボルト)