学生時代、毎日早起きをして自分のためにお弁当を作ってくれたお母さん。
喧嘩した次の日も、ちゃんとお弁当を用意してくれていたお母さん。
特別な日には、お弁当に好物をそっと入れてくれたお母さん。
あの頃は照れくさくて言えなかった感謝の気持ちを、大人になった今、息子さんからお母さんへ「お弁当」というかたちで恩返しします。題して、「恩返し弁当」。
マイペースなおしゃれ男子のお弁当作り
今回お母さんへ「恩返し弁当」を作ってくれるのはユウさん。おしゃれ男子な彼は、トップスタイリストとして原宿で美容師をしています。現在は実家を出て暮らしていますが、月に一度は必ず実家に帰るという、なんだか訳あり(?)の彼……。そんなユウさんが、今日はお母さんとの思い出のお弁当を作ります。
ユウさん「高校生の頃にみんなが進路を決める中で、僕だけがやりたいことを見つけられなくて。『とりあえず大学』というのも違うし、サラリーマンにはなりたくないと悩んで、美容専門学校への進学を決めました。両親は何も言わず、いい意味で放任でやりやすかったです。卒業後、大変だったアシスタント時代を乗り越えられたのも、両親が応援してくれていたおかげです」
「そんなお母さんに、今日はお礼の気持ちも込めて、生姜焼き弁当を作ろうと思います! 煮込み料理は得意なんですが、お弁当はなかなか作る機会がないですね。あ、ブロッコリーってどこから切ればいいんですかね(笑)」
そう言って、なんとかブロッコリーを切り終え、茹ではじめます。……あれ? まだお湯が沸騰していないですよ!
「どれくらい茹でるんですかねぇ〜」
ちょっぴりマイペースなユウさん。おおらかな性格が伺えます。
毎月恒例、母親のヘアカラー
ユウさん「母はすごく料理上手というわけでもなく、お弁当は高校の頃に数回作ってもらったかなってくらいです。肉を焼いたのと、野菜と卵焼きが定番だった気がします」
「自由で自分の好きなことには努力を惜しまないタイプの母は、今もガーデニングにこだわっていて、去年資格も取得していました。僕が美容師になってから母の髪は毎月僕が染めているので、その時間に近況報告を聞いています。この前はグラデーションがしたいからってブリーチを頼まれて(笑)。痛むからダメって止めたのですが、どうしてもやりたいとのことで、一回だけやってあげました」
お話を聞いていると、なんだかすごくチャーミングなお母さん。ユウさんとのやりとりも恋人のようで、ほっこりしますね。さぁ、ブロッコリーが茹であがりました。
ユウさん「肉は切らなくていいですよね? 母はよく生姜焼きを作ってくれたんですが、いつも肉が大きかったんですよね。だから、今日もこれで行きます! 僕は生姜焼きは作ったことがないですね〜」
「母の料理で覚えているのは、『肉食べたいなぁ〜』とか、『これ美味しい』みたいなことをぽろっと言うと、三日間くらい同じものを出してくるんですよ(笑)。純粋というか単純というか、嬉しくて作ってしまうのかもしれませんね」
ユウさん「思いのほか、肉から脂が出てきましたね。大丈夫かな」
なんとか生姜焼きも完成。綺麗に照りが出ていて、美味しそうですね!
一癖あるお母さんの卵焼き
ユウさん「あとは、卵焼きを作ります! 母の卵焼きは一癖あって(笑)。卵焼き用のフライパンでなく、普通のフライパンで作るんですよ。逆に難しいですよね? でもそこがまた我が家のお弁当っぽくて僕は好きですけど」
大きな卵焼きも完成し、お弁当に詰めていきます。ご飯はのり弁で、彩りにトマトも入れたら完成です。
さあ、渾身のお弁当が出来上がりました。一時はどうなるかと思いましたが、バッチリですね。彩りの良さが食欲をそそります。息子からの初めての手作り弁当、お母さんの反応がとても楽しみです!
待ち合わせ場所は、懐かしい荒川線の線路沿い
お母さん「外で会うのは久しぶりね」
そう言いながら、待ち合わせ場所に現れたのはバッチリおしゃれをしてきたお母さん。歳を重ねてもおしゃれを楽しむ姿が素敵です。待ち合わせた場所は、電車が大好きだった幼少期のユウさんのために何度も訪れた思い出の場所です。
お母さん「息子はとにかく心優しい子です。穏やかな性格で、ちょっと男らしさが足りないんじゃないかって心配になることもありましたが、今はこうして立派に育ってくれて嬉しいですね」
「今日は久しぶりにこの路面電車を見ました。ユウが3歳くらいの頃は電車のことを“ゴンゴン”と呼び、電車が通ると大はしゃぎしたのでよく来ていたのを思い出しますね。あの頃に家族で行ったお菓子の問屋さんはまだあるかしらねぇ」
ずいぶんと変わった景色と、変わらない路面電車を見ながら、あらためて息子さんの成長を実感するお母さん。
さぁ、そんなお母さんに10年越しの「ありがとう」をお弁当という形で伝えます。
不揃いなのも愛おしい、初めてのお弁当
すっかり寒くなった公園ですが、今日は日差しが暖かいです。ユウさんからお母さんに、先ほど作ったお弁当を渡します。
ユウさん「はい、どうぞ」
お母さん「あら、何? お弁当? どうしたの?」
ユウさん「作ってきたよ」
お母さん「え、ありがとう」
いざお母さんを前にすると、ちょっと恥ずかしそうなユウさんですが、お母さんは嬉しそうですね。
お母さん「まぁ、のり弁ね。生姜焼きも美味しそう〜」
二人「いただきます!」
お母さん「これは、卵焼きね」
ユウさん「あ、味見を忘れてたけど、大丈夫だった? 砂糖入れすぎてないかな」
お母さん「大丈夫! さっぱりしていて美味しいよ」
お母さん「生姜焼きはちょっとしょっぱいなぁ」
ユウさん「そうだった? ごめんね」
お母さん「でも、こんなお弁当作れるなんてすごいね。お母さん、下の子の子育てやなんやらで、ろくなお弁当作ってあげられなかったよね」
ユウさん「いや、でも学生の頃はほとんど給食だったし。必要な日にはちゃんと作ってくれたよね」
お母さん「……ありがとう。ユウは意外と大食いよね?」
ユウさん「うん、食べるときはね」
公園では子供たちが運動会の練習をしていました。その光景を懐かしそうに眺める二人。お母さんからしてみたら、ついこの間まで甘えていたと思った息子が、すっかり大きくなりお弁当を作ってくれるなんて感慨深いですよね。
お母さん「今日はこれから仕事?」
ユウさん「うん、午後から予約が入ってるよ」
お母さん「そう、忙しいのはいいことよね。仕事は相変わらず?」
ユウさん「うん、順調だよ」
お母さん「そっか。美容師を辞めようと悩んでいたときもあったけれど、続けてきてよかったね。家では仕事の愚痴とか一切言わないから、ストレスが溜まっていないか心配していたのよ」
ユウさん「大変は大変だけど、どの仕事もそれなりに大変だよね」
「美容師になると決めたときに、お母さんもお父さんも何も言わなかったけど、応援してくれているのはわかっていたから諦めずにここまで来られたよ。これからも美容師として頑張るから、お母さんの髪も染めさせてね」
お母さん「今日はありがとう。お弁当、ごちそうさま」
ユウさん「こちらこそ、ありがとう」
毎日のお弁当に詰まっていたもの
毎日、お母さんが作ってくれたお弁当。それは母と息子の「思い出の時間」なのかもしれません。毎日でなくても、特別な内容でなくても、思い出すたびに共有されるその時間は、いつになっても色褪せることなく、二人の記憶の中で生き続けます。
どんな時もあなたを支えてくれる家族に、ちゃんと「ありがとう」を伝えていますか? 普段なかなか素直に感謝の言葉を伝えづらい家族だからこそ、あなただけのかたちで「ありがとう」を伝えてみませんか?
ライター/板橋葵
カメラ/高山諒
編集/大月真衣子