親孝行エッセイ「べつべつだから」伊藤紺
母は“デキる女”風だった。
毎朝早く起きて、子供たちの朝食や弁当を作り、平たい皿に盛ったアボカドだらけのサラダを速やかに食べ、夕飯の下ごしらえや洗濯を済ませ、化粧を済ませ、ヒールを履いて、1時間半かけて出勤する。在宅時でも、仕事の電話がかかってくれば、2トーン高い声と業界イントネーションで饒舌なトークを繰り広げ、定型の冗談を混ぜつつ、頃合いを見て電話を自然に終焉に向かわせたし、東京のど田舎、日野市に住んでいながら、表参道の美容室に通い、近所にはいない尖った前下がりボブの髪をかきあげていた。
一見、デキる女のようだが、ぴしっとキレイなお出かけ着に対して部屋着はいつもダサかったし、隙間時間を...